いなくなった忠信が、もしかしたら敵のまわしものかもしれないと、
家臣たちが、やかたのすみずみまでさがしています。

静御前は、初音の鼓をうつと、いつもどこからともなく、
忠信があらわれることを、おもいだしました。
鼓をとりだし、ポン!とひとうち、
あたりを見まわし、またひとうちと、うちつづけていると、
いつのまにか、じっと音色に聞き入っている狐忠信がいました。

静御前は、刀にてをかけそっとちかづきますが、すぐ気づかれてしまい、
なかなかうまくいきません。

また鼓をうちはじめると、こんどはうかれておどりはじめました。
ここぞとばかり、きりかかりますが、
とても人間わざとはおもえないみがるさで、
ヒラリ ヒラリとかわされてしまいます。

「あなたは、いったいなにものですか!」と、といつめると、
いったんは、海老ぞりでのがれようとしましたが、
ついにかんねんしたのか、鼓を静御前のまえにそっとおいて、
「忠信殿になりすまして、もうしわけありませんでした。」と
手をついてあやまりました。そして、じぶんの身の上をはなしはじめました。



もどる


すすむ